食料不安/飽食スタイル見直す機会に

河北新報社説 2008年05月26日月曜日

食料の未来に不安の影が忍び寄りつつある。

相次ぐ食品の値上がりはそのおぼろげな輪郭であろう。めん類やパン、食用油、肉類、乳製品―。製品の原料であり畜類の飼料となる、小麦も大豆もトウモロコシも、国際価格はこの1年半で約2.5倍に跳ね上がっている。

人口増と経済成長が著しい中国やインドを含む新興国の需要増を基底に、米国のバイオ燃料増産政策、頻発する異常気象による生産変動も絡み、世界の台所事情を悪化させている。

政策変更が可能なバイオ燃料を除けば、人知の及びようもない要因であり、長期的に見れば需給逼迫(ひっぱく)の度合いは強まりこそすれ弱まることはあるまい。食品の価格も同様に推移しよう。
「災いを転じて福となす」という。発想を変え、迫り来る食料の危機を、「食のゆがみ」を正す好機にできないものか。「飽食」スタイルからの転換だ。
日本人の食生活は経済成長とともに大きく変化してきた。

成長の出発点とも言える50年前と比べ、供給量はコメやイモがほぼ半減。一方で肉類は8.7倍、牛乳・乳製品が7.6倍、油脂類が5.4倍も伸びた。パンの消費も増大し、この食の洋風化が、穀物の輸入に拍車をかけてきたのだ。
この変化は健康面で悪影響をもたらした。畜産物や脂質の取り過ぎ、野菜不足などから、どうしても肥満や生活習慣病になりやすい。
ここは「健康的」と欧米でも人気がある日本型食生活の良さを見直してみてはどうか。

コメを中心に、野菜がふんだんな煮物や汁物に魚、肉を組み合わせた食事は、栄養のバランスが取れ健康にいい。しかも、そこの風土にはぐくまれた身近な食材を使えば、農業の食料供給力の向上を促し、ひいては地域経済も元気にできよう。
もう一つ、飽食の象徴として忘れてならないのは、食品の大量廃棄だ。

農水省によると、国内で発生する食品廃棄物は約1900万トン(2004年度)に上るという。同時期の世界の食料援助量が約730万トンというから、実にその2.6倍に相当する。「もったいない」を通り越して、罪悪感すら覚える。
家庭で廃棄される食料は一人当たり年間80キロを超す。調理くずに混じって、食べ残し、中には手つかずの食品もあろう。

ロスを最小限に抑えるよう、食品の購入と利用に心を配りたい。そうすれば、値上がり分も、国産食材の割高さも吸収できるかもしれない。
ライフスタイルは、そう簡単に変えられるものではなかろう。が、一歩を踏み出すことで、不安をいくらかでも和らげることができるのではないか。