防げ温暖化、熱い自治体(朝日新聞)

2008年03月16日02時04分

地球温暖化対策に乗り出す機運が、自治体でも高まっている。朝日新聞社の全国自治体調査によると、国もためらうような野心的な削減目標を掲げる例が出てきた。温暖化で受ける農作物などへの悪影響をどう回避するかにも関心が向きつつある。

■町内会も論議

7月に北海道洞爺湖サミットが開催される北海道。3月初旬にあった道議会の代表質問では、道が導入を目指している森林環境税に質問が相次いだ。高橋はるみ知事は「近いうちに具体的な形にする」と力を込めた。

道の審議会は今年に入り、「サミット開催地として温暖化防止への貢献が必要」と森林保全の費用を税として徴収する制度を提言した。総務省によると、この数年で全国23自治体に広がり、さらに6県が新年度からの施行を決めている。

国内の森林面積の4分の1を抱える北海道から新たな取り組みをアピールしたい。そんな意識が高まり、近く道は「環境宣言」も打ち出す。

兵庫県議会では2月下旬、08年度予算案の提案説明で、井戸敏三知事が県独自の排出量取引制度の導入を検討することを明らかにした。

各企業の二酸化炭素CO2排出枠を国などが配分する「キャップ・アンド・トレード方式」とは異なり、自主的な目標に基づく「ひょうご方式」で過不足分を取引する。条例で排出抑制計画の作成を義務づけた約630社と中小企業約2200社を参加させる予定だ。県の環境管理局は「産業界の抵抗で導入できていない国とは違うやり方」と自信を見せる。

広島市は、町内会単位で参加する市内限定の排出量取引まで論議。市の担当者は「今年は行動元年だ」と鼻息が荒い。

温暖化問題への関心の高まりを受けて、全国の自治体の新年度事業には温暖化関連が目白押し。小回りがきかない国政の不足分を強化しようという積極姿勢も目立つ。

住宅用太陽光発電設備の設置台数で日本一の愛知県。国が補助を打ち切った太陽光発電設備の普及に力を入れる。住民に補助をする市町村への資金協力に加え、新年度からは家庭での発電分を県が「グリーン電力」として買い上げる施策に乗り出す。「太陽光の普及はまだ不十分。日照時間の長い地域の特性を生かしたい」

■壁

ただ、地方が温暖化対策を進めるには、数々の障害がある。

「地域経済が不況に苦しむ中、環境より、まず経済というのが現状」。岩手県の担当者は、地方の雰囲気をこう表す。県内の排出量削減のためには中小企業からの排出量を抑えることが課題だが「言い出しにくい」という。2月に戦略を発表して対策に積極的な川崎市も、「産業部門での削減を進めたいが、規制を強めすぎて誘致企業が出て行ってしまったらどうするか」と頭を悩ませる。

国と地方で役割分担が不明確との不満も多い。

青森県の担当者は、CO2削減の啓発運動など同じ趣旨なのに、国と地方で名前を変えてばらばらに展開する例があるといい、非効率さを指摘する。「もっと効率的に予算を使えないものか」

兵庫県加古川市には、市内の企業から「国からも県からも二重に温暖化対策の報告を求められ、負担になっている」との苦情が届いている。同市は推進計画をつくっていないが、地元企業に重ねての負担を頼みにくいという。

国と地方で連携がうまくいかない現状を受けて全国知事会は、互いの役割を明確にするよう提言する準備を進めている。専門部会事務局を務める茨城県は「国と地方が企画段階から意見交換して効率的に事業を進めないと、対策は効果を上げられない」と話した。

■逆転の発想

調査では、もはや避けられなくなった温暖化とどう付き合うか、取り組みが始まろうとしている様子も目立った。

宮崎県は新年度、地球温暖化地域農水産業研究センター(仮称)を設置する。温暖化で台風の襲来時期がずれたり大型化が予想されたりした際の農水産業へのダメージを心配し、例えば、台風で養殖いけすが破壊されないように事前に海中に沈めて被害を避けるといった実証事業を進める。

温暖化を逆手に取った発想も生まれている。気温上昇で、マンゴーや観賞用パイナップルなど南国の作物を関東地方でも栽培できるようになるかもしれない。埼玉県は4月から、作物の導入可能性や栽培条件などを3年かけて研究する予定だ。

調査対象の半数以上の77自治体が、農業分野での温暖化への適応を今後の課題と答えた。コメ、ミカン、リンゴなど、すでに各地で温暖化によるとみられる品質低下が起きている。こうした影響を和らげるため、新品種の開発や栽培方法の改良に手をつける自治体が相次ぐ。

豪雨や水害、海面上昇による高潮被害などに備えた基盤整備が必要と答えたところは全体の6割近くの84自治体。昨夏の記録的猛暑もあり、大都市部を中心に、ヒートアイランド対策を進める動きも広がる。

観光分野での対応の必要性を唱える自治体も16に及んだ。長野市は、市営スキー場3カ所のうち特に暖冬や少雪の影響を受けやすいとみられる南向き斜面にあるスキー場の規模を来季から半分にする方針を決めている。逆に高知県や鹿児島市など南国では、ダイバーに人気の高いサンゴ礁の白化現象を懸念する声が多かった。